「お待たせしました。次の方、どうぞ」
司書の方が「ここですよ」という風に右手を挙げながら呼び掛ける。
ソーシャルディスタンスを取って順番を待っていたぼくは前に進み出た。
返却する本を手に持ち、カウンターに三つ並んでいる窓口の真ん中へと差し出す。
「これは返却です」
「はい、返却ですね」
司書の方は手元のバーコードリーダーで本に貼られたバーコードラベルを読み取る。
「はい、これでお手持ちの図書はすべて返却になります」
「そしたらネットで予約していた本をお願いします」
そう言いながら、今度は司書の方に図書カードを差し出す。
司書の方は図書カードをバーコードリーダーで読み取り、バーコードリーダーがつながっているパソコンの画面を覗き込む。
「2冊ご用意できています。取ってきますのでしばらくお待ちください」
そう言って、ぼくが明石図書館のホームページから予約した本を取りに行ってくれた。
カウンターの奥に並んでいる本棚から2冊の本を取りだして窓口へと帰って来る。
「これで間違いありませんか?」
手に持った2冊の本は確かにぼくがネットで予約した本だ。
「それでは本日から2週間後の〇月×日が返却期限になります。ありがとうございました」
「ありがとうございました」
図書カードとともに2冊の本を受け取り、司書の方に礼を言ってぼくはカウンターを後にした。
貧乏な本好きには図書館はありがたい存在
最近の本は高い。
ぼくが中学生のころ、薄いセロファン紙のカバーがついた岩波文庫は1冊100円とか150円とかいう価格がついていたように記憶している。
今はビジネス書の新刊で1冊1,500円~2,000円程度。
文庫本や新書でも1,000円を超えるようなものがある。
少なくともぼくにとっては決して安いとは言えない価格だ。
※もちろん費用対効果という面では、本は抜群にコスパの良いものだということは分かっています。その点はこの際置いておいて、ここでは絶対的な価格のこととして話を進めていきますね。
特に小説なんかは、(太宰治の「人間失格」を少なくとも100回以上読み返しているという、お笑い芸人で直木賞作家の又吉直樹さんの例などは特別として)何度も繰り返し読むという人は少ないだろう。
1回読んだら終わり。
2度と手に取ることは無いかもしれない。
そんな本1冊に1,500円を出すのは、現役をリタイアした人間にとってはなかなか厳しいものがある。
※決して「小説」が何度も読む価値のないものだ、などと軽視しているわけではありませんので念のため。
「蔵書」が趣味という人は別として、本好き・読書好きだけど書籍代は高すぎると感じているぼくのような人間にとっては、無料で本が借りられる図書館の存在はとてもありがたいものなのである。
図書館のデメリット
1回読んだらしばらくは手に取ることはないだろうという本は、図書館で借りるに限ると思う。
もう一度読みたいなと思った時には、また借りれば良い。
日本の狭い住宅事情で、荷物を少なくするという意味でも良いことだ。
だから「小説」などはまさに図書館で借りるに適していると思うのだが、問題は人気の高い本になると、なかなか借りることができないという点だ。
芥川賞・直木賞や本屋大賞と言ったメジャーな賞の受賞作を始め、人気の高い本や新刊本などは予約する人も多く、かなり待たなければ借りることができない。
これは図書館で本を借りる際の最大のデメリットと言えるかもしれない。
しかもネット等で予約をする場合、予約できる冊数に上限がある。
人気のある本をあれもこれもと予約していたら、あっという間に予約上限に達してしまう。
しかもしかも。
そうやって予約した“人気の高い本”はいつ順番が回ってくるか分からないわけだから、一度上限に達してしまったら、次の本の予約もままならないという事態に陥ってしまうわけだ。
人気のある本はなかなか順番が回ってこないことが分かっていても、予約しておかないことには永遠に順番は回ってこない。
かと言ってそんな本を次々に予約すれば、すぐに予約上限に達する。
そんなジレンマを少しでも解消すべくぼくがやっているのが、1つの図書館に複数の図書カードを作るという方法と、その方法で複数の図書館を利用するというやり方だ。
※もちろん公序良俗に反するようなやり方はではありませんよ。
複数の図書カード作成を複数の図書館で実践
たいそうな書き方をしたが、やっていることは単純。
1つの図書館で複数の図書カードを作るということと、それを複数の図書館で実践するということだけだ。
まず1つの図書館で複数の図書カードを作るという方法。
これは家族の全員にカードを作ってもらい、それを自分用として利用させてもらうという方法だ。
我が家の場合だと、妻と、今も同居している長男と次男の3人分の図書カードを、自分の分とは別にそれぞれに作ってもらう。
ぼくがいつもお世話になっている兵庫県明石市の明石市立図書館では、1枚のカードで10冊まで予約することができる。
ぼくの図書カードプラス妻・長男・次男の4枚のカードそれぞれの名義で予約をすれば、合計40冊の予約ができるようになるわけだ。
市立図書館の次に県立図書館と、隣接する市である神戸市の図書館でも同様に4枚の図書カードを作る。
※たいていの場合、隣接する市の図書館でも図書カードを作ることができます。もちろん、隣接市の図書館、あるいは図書受け取り場所が自宅の近くにあり、住所地の図書館と同様、手軽に利用できるという前提での話になりますが・・・。
兵庫県立図書館もインターネットで予約できる冊数は10冊なので、4人分の図書カードで40冊の予約が可能だ。
神戸市立図書館ではひとり20冊まで予約ができるので、4人分で80冊になる。
明石市立図書館、兵庫県立図書館、神戸市立図書館あわせて、合計160冊もの本が予約可能になるわけだ。
もちろん予約できる本の数が増えたからと言って、人気のある本がすぐに読めるようになるわけではない。
ただ予約上限を気にせずにどんどん予約できるので、「予約していない本は永遠に順番は回ってこない」という事態は避けることができる。
図書館にない本は“購入リクエスト”を
図書館には自分の読みたい本が無い・・・。
あなたにはそんな経験がないですか?
そんな時は“購入リクエスト”を利用すればよい。
説明するまでもないと思うが、“購入リクエスト”というのは、図書館に置いていない本を購入してくださいと図書館に“リクエスト”するシステムだ。
新刊できたてほやほやで、まだ図書館には置かれていない本。
マニアックな分野の本で、一般的な認知度が低いために図書館の蔵書にはない本。
そのような本を購入してくださいと図書館にお願いするわけだ。
図書館の購入基準のようなものがあるとは思うが、よほどのことが無い限りはリクエストに応じてもらえると思う。
少なくともぼくがこれまでリクエストした本はすべて購入してもらっている。
蛇足だが、もちろん購入費用は図書館持ちだ。
図書館には希望の本が置いていないとあきらめず、“購入リクエスト”を積極的に活用しよう。
図書館にとっても自分たちだけでは目が届かなかった本を蔵書に加えることができるという意味で、“購入リクエスト”は大いに利用してほしいシステムなのではないだろうか。
図書館利用の意外な効用
本屋に立ち寄って実際に中身をある程度読んだうえで本を買う場合は別として、新聞の書評やAmazonなどのレビュー、目を引くタイトルなどを頼りに本を買ったり図書館で借りたりする場合、読み始めてみると期待に反してまるで面白くない内容だったということがあると思う。
そんな場合、あなたならどうされますか?
すぐに本を投げ出すか、我慢して最後まで読み通すか?
最初に書いた通り、今の本は高い。
1,000円~2,000円も出して買った本を、つまらないからと投げ出してしまうのはなかなか勇気がいるものではないだろうか。
かと言って面白くもない本を最後まで読むというのは苦行以外の何物でもない。
何よりも、自分にとって何ら得られるものがないと思う本を最後まで読むのは時間の無駄だ。
人間、色々大切なものがあると思うが、時間もまた相当上位に位置する大切なものだとぼくは感じる。
失われた時間は取り返せない。
限りある人生、大切な時間を浪費している暇はない。
読み始めてみて、「あっ、これはなんか違うな」と感じる本は、さっさと見切りをつけて次の本へと移るべきなのだ。
そんな時、図書館で借りた本なら何の気兼ねもなく途中で放り出すことができる。
これは図書館利用の、バカにできない意外な効用だと思っている。